
《あらすじ》
初老のサラリーマンである平山は、細君を
亡くして以来、24歳になる長女・路子に
家事を任せきって生活している。
そのことに後ろめたさを感じつつも、まだ
嫁にやるには子どもだと思いたい平山に、
同僚の河合が路子の縁談を持ちかける。
始めは乗り気でない平山であったが、
河合のしつこい説得と、一人娘の婚期を
遅れさせ後悔する恩師の姿を見るにつれ、
ついに路子へ縁談のある事を告白する。
が、急に振って湧いた縁談に、当惑する
路子―。よくよく聞くと、どうやら路子にも
静かに想う人がいるらしく…。
『秋刀魚の味』(’62・松竹大船)
製作:山内静夫 監督・脚本:小津安二郎
脚本:野田高梧 撮影:厚田雄春
音楽:斎藤高順 美術:浜田辰雄/荻原重夫
照明:石渡健蔵 録音:妹尾芳三郎 編集:浜村義康
出演:笠智衆/岩下志麻/佐田啓二/岡田茉莉子/
中村伸郎/三上真一郎/吉田輝雄/牧紀子/三宅邦子/
岸田今日子/東野英治郎/加東大介/杉村春子 他

62年度キネマ旬報ベスト・テン第8位
《レヴュー》
あっという間に、お盆休みは終わってしまいましたが…
ビデオ整理の長き戦いは、ようやく今日から始まります!
なぜか律儀に記していたビデオリストの中で、最も古い未見ビデオ―
その記念すべき(?!)作品こそ、日本が世界に誇る巨匠・小津安二郎監督の
遺作となってしまった当作品であります。
が、実のところ―
今まで小津映画を意図的に避けてきたために、
このビデオが最も古く残ってきたというのが真相でありまして…。
正直に言うと、映画に興味を持ち始めたばかりの10代後半だった
自分にとっては、黒澤明や今村昌平などのエネルギッシュな映画の方が
どうしても面白く感じられ、小市民の慎ましい生活や、細やかな人情の機微を
静かな語り口で描いていく小津映画のスタイルは、刺激の少ない
やや退屈な映画なのではないかいう感想を持っていました。
その印象をずっと引きずったまま、いわば食わず嫌いをして、
今日に至るまで押し入れの暗闇に押し込んでいたというワケです。
しかしながら、わざわざ食わず嫌いの映画を録画し、保存していたのは―
時が経って自分が30代になったとき、10代の頃とはまた違った
小津映画の捉え方をできるのではないかという―そんな予感めいた
想いもあったからでした…。
果たして、その予感の通りに…いや、それ以上に、
久方ぶりに見る小津映画からは、10代の頃には感じられなかった
心地よさと面白み、何より深い感動を存分に味わうことができたのです。
昔は回りくどく感じられた、同フレーズを繰り返す独特の台詞まわしも、
かえって心地よい“タメ”のリズムとなって響いてきました…。
この食わず嫌いを解消していく時間は、同時に、この物語の主役である
笠智衆という俳優を、改めてリスペクトし直す過程ともなりました。
その朴訥でいて誠実さにあふれる人情味と、飄々とした風情から漂う
ユニークな演技は、誰しもが認めるところだと思いますが…
この映画で改めて、そのソフトなたたたずまいの内に秘める
情念の強さを垣間見た気がしてなりません。
始めは父も娘も乗り気でなかったお見合い話が、拍子抜けするほど
あっさりとまとまり、婚儀のシーンすらすっ飛ばし、父の前から娘はいなくなる―
そんな見る者にとっても唐突なその夜の、お茶をいれてくれる人すらいない
孤独に震える笠智衆の背中の演技といったら―
もうちょっと言葉にならないほどの凄みを放っています!
現代に、これほど
背中で人生の悲哀を表現できる俳優がいるのだろうか…
この映画を見終わった後、そういった感慨にふけるほど、
笠智衆という俳優の存在感を再認識させられました。
俳優の存在感といえば、この映画の豪華なキャスティングにも
触れざるおえないでしょう。
岩下志麻、岡田茉莉子、岸田今日子、杉村春子といった豪華な女優陣の
好演もさることながら、佐田啓二(中井貴一パパ)、東野英治郎(初代黄門様)、
黒澤映画常連の加東大介といった男優陣のユーモラスな演技達者ぶりも、
この映画を見応えのあるものとしています。
まさに、巨匠の遺作にふさわしい顔ぶれ!
そのなかでも特に、快活な長女役・岩下志麻の凛々しいまでの美しさ…
その眩しいほどの花嫁姿は必見モノだと思いますし、
老いさらばえた元教師を演じた東野英治郎の酔っ払い演技も、
黄門様とはまた違った枯れっぷりで素敵です。
ん〜。
約10数年ぶりに観た小津映画ですが、その題名が表すように、
脂がのりきった俳優陣による演技の旨みと、はらわたのようにちょっぴり苦い
小津演出の渋みとが渾然一体となっていて、それがとても味わい深く、
食わず嫌いがウソのように美味しく味わうことができました。
その味を愉しめるようになったということは…
やっぱり歳をとってしまったという証しなのかもしれません。
なんて寂しい結論に至ってはみたものの、
10年以上前に録画したビデオを見るのは、なかなかに乙なものですね。
楽しいです、当時のCMを見るのが(笑)。
今までにご紹介した映画の中で、民放キー局から録画したものが
なかったこともあって、当時の企業CMを見るのは今回が初めてでした。
で、当時のCM、きっと何回も見ているはずなのに、今ではまったく
憶えていないのが逆に楽しくて―
今は滅多に顔を見なくなったアイドルが、ユニクロとアートネイチャーを掛け持ち
出演していたり、まだあどけない田畑智子と桃井かおりが「タンスにゴン」で
ヘンな踊りを披露していたり、はたまたツカサのウィークリーマンションのCMが
相変わらずのチープ振りを炸裂させていたりと―。
巨匠の名作映画とは、また一味違った味わいを愉しむことができました。
ビデオを無駄に寝かせておくのも、たまにはいいものですね。
これが20年、30年モノだったら、更に味わいも深くなることでしょう♪
皆さんも、たまには古いビデオを引っ張り出して、
ご覧になってみてはいかがでしょうか!
さて、後付けが長くなってしまいましたが…
次回は、この『秋刀魚の味』と同じビデオテープに併録した
『月はどっちに出ている』(’93)をレヴューします。
よっぽどのことがない限り、この『秋刀魚の味』が入ったビデオを
処分することはないと思いますが…どうなりますでしょうか!?
YouTube『秋刀魚の味』予告編
この映画のお気に入り度(最高五つ星):★★★★